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アグボグブロシー:その“見えない”現実を語る

アグボグブロシー:その“見えない”現実を語る

Vol.9ー電子ごみの世界最大級の集積地

今もなお、西側から送られる電子廃棄物(E-waste)が静かに押し寄せる場所が、アフリカ・ガーナのアグボグブロシー地区です。この地区は、電子ごみの世界最大級の集積地として知られています。

かつて普通に使われていたスマートフォンやノートパソコンは、ここで“スタートラインのない旅”を終えています。写真のとおり、そこには山のように積まれた電子機器が延々と横たわっており、現地の人々は露天で分解を始めます。


■ 黒い煙と、そこで暮らす人々の現実

この場所の最も目を引く光景は、黒煙です。銅線を取り出すため、機器を燃やす。そこから立ち込める煙を、特に子どもや妊婦が吸い込みながら作業を行っています。それが日常となっている厳しい現実があります。

電子ごみには鉛・カドミウム・水銀・臭素系難燃剤といった極めて有害な物質が含まれており、焼却時にはそれが大気中に放出され、大きな健康リスクとなります。

■ 命を削る現場:アグボグブロシーのウェイスト・ピッカーたち

アグボグブロシーは、世界で最も過酷なゴミ処理村のひとつと言われています。そこでは、幼い子どもから大人までが、ほとんど防護具を身につけずに電子廃棄物の山に挑みます。

鋭利な破片が散乱する中で鉄線を切り、燃えた機器から銅を集める――その作業は、やけどや切り傷、化学火傷を日常的に引き起こします。なかには、危険な化学物質に触れ続けた結果、呼吸器や皮膚の慢性疾患を抱える人も少なくありません。

高温にさらされた金属や基板から立ち上がる黒煙は、明らかに毒性を帯びています。呼吸困難や慢性的な咳を抱えながら働く人も多く、データが限定的ながら、その健康被害の深刻さは想像を超える現状といえるでしょう。


■ 出稼ぎとしての構図

ここで働く人々の多くは、ガーナ国内の農村部や周辺諸国からの出稼ぎ者です。生活の糧を求め、合法・非合法を問わずこの地にたどり着きますが、得られる収入はわずかで、一家の稼ぎ頭として体を張らざるを得ない状況です。

また、非正規の労働者ゆえに労働保護や最低賃金もなく、事故や病気に遭っても補償はありません。命を削って働くことこそが、生きる選択肢になってしまっている構造的な課題がここにはあります。


■ なぜこの構造が今も続いているのか?

  • 一部先進国では「リサイクルした」という安心感を得るためにE-wasteを輸出できてしまう構造になっている
  • ガーナ側では適切な処理インフラが不足しており、対策が追いつかない中で“安価な雇用機会”としても機能してしまう現実がある
  • こうしたごみの輸出は、環境正義や国際倫理の観点から大きな曖昧さと問題をはらんでいる

■ なぜ私たちも問われているのか?

こうした現場の背景には明らかに、大量消費と「見えない代償」を前提とした経済構造があります。最新家電やファッション商品を安価に手に入れる一方で、その裏側には誰かの健康、家族、未来が犠牲になっているのです。

サーキュラーエコノミーの観点から言えば、「捨てる前提」の設計そのものが、人間と環境への暴力に等しい。この構造を前提にしている限り、進歩とは呼べません。

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