Rethink Waste. Create Value.
Vol.1 ― サーキュラーエコノミーとは?リニア型との決定的な違い ―
はじめに:なぜ「捨てる」を疑うのか?
「使い終わったら、捨てるのが当たり前」
この感覚、私たちの生活の隅々にまで染みついています。
新しい服を買ったら、前の服はクローゼットの奥かゴミ箱へ。
最新のスマホが発売されたら、まだ使える機種を下取りに出す。
でも、これは本当に“合理的”な経済モデルなのでしょうか?
今、世界はかつてないスピードで資源を消費し、その一方で廃棄物が山のように積み上がっています。
その光景は、経済の繁栄の象徴ではなく、「仕組みの限界」を映す鏡のようです。
こんにちは、CircularEです。
本連載「サーキュラーエコノミー基礎編」では、欧州を中心に進む循環型経済の最新動向やインサイトを、私自身が学びながら皆さんと共有し、議論していく場を作りたいと考えています。今後の循環型経済を構築したい、検討したい、学びたい、またすでに取り組んでいる方も今後の発信や洞察でご一緒に学んでいただければと思います。
第1回では、基礎となるサーキュラーエコノミー(Circular Economy:CE)の定義やリニア型との違い、そしてそれが世界的に求められる理由を整理していきましょう。
1. リニア型経済:便利さの裏にある“片道切符”
20世紀の産業革命以降、人類が構築してきた経済は「リニア型」と呼ばれます。
その流れは非常にシンプルです。
資源を取る(Take) → 製品をつくる(Make) → 使う(Use) → 捨てる(Dispose)
このモデルは、高度経済成長期に莫大な利益と便利さをもたらしました。
大量生産をより早く、より多く、より安く、効率的に生産し続け、誰もが手に届くようになり、「使い捨て」が豊かさの象徴となった時代でもあります。
しかし今、私たちはこの片道切符の副作用に直面しています。
- 埋立地が限界を迎えつつある
- 焼却によるCO₂排出が気候変動を悪化させる
- プラスチックが海洋生態系を汚染する
「大量に作っては大量に捨てる」経済は、地球の持続性を壊し始めているのです。
2. サーキュラーエコノミーが求められる3つの背景
① 資源の有限性と価格高騰
世界人口は80億人を超え、2040年には100億人に迫ると予測されています。
エネルギー、レアメタル、水、森林――あらゆる資源の争奪戦はすでに始まっています。
供給不安や価格変動は、企業経営のリスク要因として無視できません。
https://www.weforum.org/stories/2024/03/sustainable-resource-consumption-urgent-un/
② 地球環境問題の深刻化
廃棄物処理や焼却はCO₂の主要な排出源です。
特にプラスチックの問題は深刻で、海洋には毎年1,100万トン以上のプラごみが流出しています。
分解されないごみはマイクロプラスチックとなり、魚や海鳥、そして私たち人間の体にも入り込んでいます。
③ グローバル制度の転換期
EUは「European Green Deal(欧州グリーンディール)」を掲げ、サーキュラーエコノミーを政策の中核に据えました。
2024年以降はCSRD(企業持続可能性報告指令)によって、サプライチェーン全体にわたる情報開示義務が拡大。
ASEAN諸国も同様に、循環型社会への移行を国家戦略レベルで推進しています。



3. サーキュラーエコノミーとは? ― 定義と原則
サーキュラーエコノミーとは、
「資源をゴミとして終わらせず、何度も価値として巡らせる経済モデル」です。
Ellen MacArthur Foundationはこう定義しています:
“A circular economy is an industrial system that is restorative and regenerative by design.”
(サーキュラーエコノミーは、設計段階から回復性と再生性を備えた産業システムである)

つまり、重要なのは 「設計時点で捨てない仕組みを考える」 という発想です。
従来の「リサイクル後付け型」ではなく、「廃棄物ゼロを前提に製品やサービスを組み立てる」ことが求められます。
4. リニア型とサーキュラー型の決定的な違い
項目 | リニアエコノミー | サーキュラーエコノミー |
---|---|---|
資源の流れ | 一直線:採掘 → 使用 → 廃棄 | 循環:採掘 → 使用 → 回収 → 再利用 |
設計思想 | 廃棄前提、短寿命 | 修理・再製造・長寿命が前提 |
環境影響 | 資源消費+CO₂排出 | 資源使用抑制+廃棄物削減 |
経済性 | 売り切り型 | 継続収益型(製品as a service等) |
リニアは“使い切る”経済、サーキュラーは“回し続ける”経済。
この設計思想の違いが、未来のビジネス競争力を左右します。
5. サーキュラーエコノミーの歴史と欧州の動き
- 1970年代:ローマクラブ『成長の限界』が「有限な地球」を警告
- 1990年代:エコデザイン・産業エコロジーが進展
- 2000年代:ドイツ、中国、日本が循環型社会政策を制度化
- 2010年代〜:Ellen MacArthur財団がグローバルに概念を体系化し、Apple・Philips・Unileverなどが導入
特に欧州では、CEが単なる環境施策ではなく「経済成長戦略の柱」として位置づけられています。
循環は、ビジネスの未来を切り開く競争力でもあるのです。
6. 日本にもある「もったいない文化」
日本には古来から「もったいない」の精神がありました。
着物を仕立て直して子ども服にしたり、壊れた道具を修理し続けたり、ご飯粒を残さない文化がありました。
私も中古車やセカンドハンドのモノに特別な愛着を感じています。
それは、単なるモノ以上の「物語」がそこにあるからかもしれません。
モノが循環していくということは、資源の再利用というだけでなく、誰かの思いを次の人が受け継ぐという“文化の循環”でもあるのではないでしょうか。
しかし現代では、産業社会の効率性や大量消費モデルの中で、こうした文化は後退しつつあります。
サーキュラーエコノミーの実装は、むしろ日本の伝統的価値観と再び手をつなぐことでもあります。
7. サーキュラーは「環境のため」だけではない
サーキュラー経済の目的は、単なる環境保全ではありません。
それは 「経済・社会・環境のバランスをとり、持続可能なビジネスを続けるための戦略」 です。
- 廃棄コストの削減
- ESG投資の呼び込み
- 新しいサービスモデル(製品を売るのではなく、利用権を提供する「Product as a Service」)
- 若い世代からのブランド支持の向上
企業が今後も競争力を持ち続けるためには、この「循環型戦略」を無視することはできません。
8. この連載で伝えたいこと
私がこの連載を始めたのは、「経済成長を否定するため」ではありません。
むしろ、経済が持続可能であり続けるために、“廃棄を前提とした仕組み”を見直す必要があると考えています。
サーキュラーエコノミーは、資源を巡らせ、価値を長く生かす仕組み。
その発想を製品設計やビジネスモデルに組み込むことで、
企業も社会も、より強く・しなやかに成長できると信じています。
次回予告
第2回では、
「なぜ私たちは大量生産・大量消費・大量廃棄を選んだのか?」
その背景にあるリニアエコノミーの構造と課題を掘り下げます。
この連載は、企業・自治体・ものづくりの現場で、
“循環する思考”を一緒に育てていくための場です。
ぜひご意見や質問、事例共有もお寄せください。次回もどうぞお楽しみに。