地中に埋めた“モノ”の行方
Vol.6 ─「見えなくする経済」から、「巡らせる設計」へ ─
地球はすべてを受け入れてくれる。 でも、それは“無限の沈黙”ではありません。
こんにちは。サーキュラーエコノミーを共に学ぶ連載、第6回です。 今回は、「地中に埋める」という行為の裏側に潜む、私たちの社会と経済の“設計ミス”に目を向けます。
「埋め立てる」は終わりじゃない。“見えなくする”という選択
プラスチック容器や古くなったスマートフォン。 「捨てたら終わり」と思っていたものは、実際にはどこへ行くのでしょうか?
私たちは廃棄物を“手放したつもり”でも、 実際には 「未来の誰かに預けている」だけなのです。
とくに、リサイクルが困難なものは「最終処分場」と呼ばれる場所へ運ばれ、地中に埋められます。 けれどそこには、“自然に還らない素材”が、何百年も居座り続けるのです。
1|プラスチック:500年残る、5分の使い捨て
石油由来のプラスチック──ポリエチレン、ポリプロピレン、PETなど。 これらは、1枚5秒で製造され、5分で使われ、数百年も分解されないという矛盾を抱えています。
これらは、世界中で毎秒何千個単位で生産・消費・廃棄されています。 分解されないまま細かく砕け、マイクロプラスチックとして、土壌や海、最終的には私たちの体内にも取り込まれていくのです。
2|電子機器は「毒性の塊」になって埋まっている
スマホ、PC、タブレットなどに含まれる電子基板は、 貴金属の宝庫であると同時に、有害物質のカタマリでもあります。
これらが分解されることなく地中に蓄積されていくと、井戸水を使う農村地域や、焼却処理施設周辺に暮らす人々が、最も深刻な影響を受けることになります。
3|“壊れやすく、分解されず、再利用も困難”…なぜこんな製品が?
そこには、私たちが見過ごしてきた根本的な構造があります。
それが、「計画的陳腐化(Planned Obsolescence)」という仕組みです。 これは、製品を早く買い替えさせるために、あえて短命に設計する手法。
- スマホは毎年のように新機種が登場
- 家電は5年以内に部品が製造終了
- 修理よりも買い替えた方が“お得”という構造
技術革新に見えても、 結果的には「分解も再利用もされず、地中に埋めるしかない」製品を大量に生み出しています。
これは自然に還らない設計ではなく、「還れないように設計された商品群」なのかもしれません。
4|見えないまま、責任も忘れていく
廃棄物を埋めることで、“見えなくする”ことはできます。 でも、それは同時に責任まで見えなくしてしまう行為でもあります。
埋めた瞬間、モノは「私たちの手」から離れ、 問題も「他人事」になってしまう。
しかしながら地中の廃棄物は何も消えていません。 むしろ、未来の世代が背負う“負債”として、そこに存在し続けるのです。
5|サーキュラーエコノミーは、「埋めない社会」への転換
この状況を抜け出すには、「ごみを減らす」だけでは不十分です。
必要なのは、「埋めなくても済むモノづくり」への構造的転換。
つまり、
- 「分解しやすく」
- 「再利用しやすく」
- 「無害な素材で」
- 「設計段階から“その後”を考慮する」
こうした設計思想が、サーキュラーエコノミーの中核です。
たとえば:
- DPP(デジタル・プロダクト・パスポート)で素材やリサイクル情報を可視化
- モジュール交換型のスマホ(Fairphoneなど)
- 生分解可能素材の導入
- 製品as a Service型のビジネスモデル
これらはすでに、世界各地で少しずつ実践されています。
おわりに:埋めたのは、モノだけじゃない。私たちの問いも。
廃棄物を地中に埋める。 それは、モノの終わりに見えて、じつは「問いの始まり」です。
- なぜ、こういう素材を選んだのか?
- なぜ、分解や再利用を考慮しなかったのか?
- なぜ、買った私たちはその“先”に無関心でいられるのか?
サーキュラーエコノミーは、 こうした“問い”を未来の世代に残さないための、もうひとつの設計戦略です。
「巡らせるために、つくる」。 そんな社会を、一緒に構想していきましょう。