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海を覆うプラスチック、見えない損失の正体とは?

海を覆うプラスチック、見えない損失の正体とは?

Vo.13― 浮かぶごみと沈む責任 ―

波の上では、よく小さなペットボトルが浮かんでいます。
どこから来て、どこへ行くのだろう。
そして、いつになったら自然に戻るのだろう──。

サーフィンを始めてから30年。アジアや中南米、ヨーロッパ、アフリカなど、これまでに20か国以上の海を訪れてきました。
海の表情はそれぞれに違い、文化も人も波も多様でした。
けれど、どの場所でも見つけたのは同じ光景──
人の暮らしの痕跡が、プラスチックとなって波間に漂っていたのです。

昔から海にごみはありました。
けれど、私の見方が変わったのだと思います。
目に入るのは単なる「ごみ」ではなく、社会の仕組みの一部、そして人間の行動の“結果”なのです。


1|海洋プラスチックごみ問題とは?

世界の海には、1億5,000万トン以上のプラスチックが存在すると推計されています。
そして、毎年約800万〜1,200万トンが新たに流れ込み続けています。
つまり、私たちは毎年“東京ドーム約2万個分”のごみを海に流している計算になります。

「流れ出ている」のではなく、「流している」。
海洋プラスチックは自然災害ではなく、社会設計の帰結なのです。

海岸で拾われるごみの約8割はプラスチック製品。
ペットボトル、食品包装、ストロー、発泡スチロール、釣り具──。
いずれも日常の中で私たちが便利さと引き換えに生み出したものです。


2|なぜプラスチックは海に流れ着くのか?

プラスチックが海へたどり着くまでには、いくつもの道筋があります。

直接のルート

  • 河川を通じた流出(都市ごみ、屋外廃棄、洪水など)
  • 漁業や船舶活動によるロス(網・ロープ・ブイなど)
  • 観光地やイベントでのポイ捨て

構造的な背景

背景内容
都市排水インフラの脆弱性東南アジアでは未処理のごみがそのまま川へ流入
廃棄物輸出構造の課題先進国の“リサイクル”輸出が他国の負担に
再資源化の限界回収されたプラの多くが焼却・不法投棄へ
微細化の問題マイクロプラスチックは浄水設備をすり抜ける

こうして見てみると、プラスチックが海に流れ着くのは偶然ではありません。
経済活動の仕組みそのものが「流れ出すようにできている」のです。
つまり、問題は“個人の行動”よりも“社会全体の構造”に根を持っています。


3|どこから来て、どこへ行くのか?

海洋ごみの多くは、河川を経由して海に流れ出ます。
世界的に見て排出量が多い国は次の通りです。

国・地域主な要因
中国長江(Yangtze River)など大河からの流出量が世界最大
インドネシア島嶼国家ゆえに海洋流出が多い
フィリピン都市ごみと輸入廃棄物の管理不備
ベトナム急速な都市化と廃棄インフラの遅れ
日本総量は少ないが、一人あたり使用量は世界上位

けれど、この問題は国単位での責任追及では解けません。
プラスチックは国境を越えて流れ、漂い、分解され、またどこかの海岸にたどり着きます。
それは、グローバルな経済と消費の流れそのものを象徴しているようです。

そして一度海に出たプラスチックの多くは、再び回収されることはありません。
紫外線と波に砕かれ、やがてマイクロプラスチックとなり、
一部は海底に沈み、また一部は海流に乗って地球をめぐり続けます。
私たちの暮らしの中で生まれたものが、姿を変えて海をさまよい、
最終的には食物連鎖を通して、再び人間社会へと戻ってくる。
それは「循環の断絶」ではなく、「逆流」と言ってもよい現象です。


4|何が問題なのか? ― 3つの深層ダメージ

この問題が難しいのは、単に「見えるごみ」だけではなく、
その下にある“見えない損失”が深く、長く残ることです。

① 生態系への不可逆的影響
ウミガメ、海鳥、クジラなど700種以上の生物が誤食や絡まりで被害を受けています。
親鳥が誤ってプラスチック片をヒナに与えてしまう例もあります。
漁網やロープはサンゴ礁を破壊し、海の生態を静かに奪っています。

② 食物連鎖への組み込み
5mm以下のマイクロプラスチックはプランクトンや小魚が摂取します。
その魚を食べる私たちの体にも、少しずつ蓄積されている可能性があります。
健康被害はまだ明確に証明されていませんが、「見えない不安」が社会に漂いはじめています。

③ 経済・社会への損害
観光地の景観悪化、清掃コスト、漁業への影響など。
国連環境計画(UNEP)の試算では、世界全体の経済損失は年間数兆円規模にのぼるといわれます。
しかし数字以上に深刻なのは、
「自分の行動が何を生み出しているのか分からない」まま、
問題が静かに広がっているという社会的な鈍化です。


プラスチックは、私たちの生活を支えてきた“現代の必需品”です。
しかしその利便性の裏側には、責任の所在が曖昧なまま積み上げられた構造があります。
海に漂うごみは、単なる環境負荷ではなく、
私たちの社会デザインの「ほころび」そのものなのかもしれません。

波の上で出会うペットボトルを見つめるたびに思います。
この海をきれいにすることも大切ですが、
それ以上に「どうすれば、最初から流れ出さない仕組みをつくれるのか」を考えたい。

その問いこそが、サーキュラーエコノミーを志す者としての原点であり、
そして、海が静かに私たちに投げかけているメッセージなのだと思います。


次回予告:“海に行かないプラスチック”のデザインとは?

製品設計・サプライチェーン・消費行動の「脱・流出設計」事例を特集予定です。

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