ファッションの裏側で燃やされる未来

Vol.10 ― ファッション業界での、私たちが知るべき現実 ―
「あなたが今、着ている服はどこから来て、そしてどこへ向かうのか?」
ファッションは、個性や美意識、文化の表現手段であり、世界中の人々が日々楽しむ産業です。 しかし、その“華やかさ”の裏側には、深刻な環境負荷と構造的なごみ問題が隠れています。
■ 衣料産業のスケール:大量生産・大量廃棄の象徴
- 世界の衣料品生産量:年間約1,000億着(2015年比で約2倍に)
- 一人当たりの購入点数:過去20年で約60%増加
- 廃棄される衣料:年間9,200万トン以上(Ellen MacArthur Foundation)
- そのうち、全体の約87%が埋立・焼却されている
※ つまり作られた服の大半は、ほとんど着られないまま、燃やされるか埋められているのです。
■ ファッションごみの行き先:再資源化はわずか
▷ 世界の衣料リサイクル率(2023年推定)
▷ なぜ繊維リサイクルは進まないのか?
- 異素材混紡(例:ポリエステル+コットン)で素材分離が困難
- 既存リサイクル技術はコスト高・品質劣化が避けられない
- リサイクルしても「再び衣服として使える」ケースは極めて限定的
■ 「古着を寄付」は本当に善行なのか?
多くの人が衣類を捨てる際、「リサイクルボックスに入れた」「古着として寄付した」と言います。 しかし、そこにも見えない落とし穴があります。
▷ 古着のグローバル・フロー
- 欧州・日本・米国から年間数千万トンの古着がグローバルに輸出
- 受け入れ先は主にケニア・ガーナ・パキスタン・チリ・マレーシアなど
- しかし輸出される古着のうち、着用可能なのは半分未満
- 残りは現地で焼却・埋立・放置され、環境問題に
ケニアの実例(BBC / Changing Markets調査):
- 英国から輸入された古着のうち、37%が「即廃棄レベル」と判定
- 一部は「リサイクル不可なプラスチック衣料」(例:ポリエステル100%)
寄付された服が「資源」ではなく、「処理困難なごみ」になっている現実。
■ ファストファッションと「設計された短命」
▷ 商品ライフサイクルが数週間に
- ZARA、SHEIN、H&Mなどは週単位で新商品を投入
- 大量生産・即投入・即割引 → 買い替え前提の消費サイクル
▷ 価格・流行のサイクルに依存
- 低価格で買いやすく、飽きたらすぐ捨てる
- 消費者の「トレンド疲労」や「所有疲れ」も進行中
- ブランド側は売り上げ維持のために、過剰供給を前提に回している
■ アパレルの廃棄問題:ブランド自身が“焼却”している
- 高級ブランドを含む多くの企業が、売れ残りを焼却処理
- バーバリー(Burberry)は、2018年に約40億円相当の商品を焼却していたと報道
- 理由:価格崩壊の回避、ブランド毀損防止、保管コスト削減
消費者に届く前に燃やされる服。これは経済効率という名の“倫理の空洞”です。
■ なぜリサイクルやリユースは定着しないのか?
■ 解決に向けた鍵:循環設計と制度変革
▷ 欧州での先進事例
- フランス:「修理しやすさ指数(Repairability Index)」を家電等に導入
- オランダ:循環型ファッションブランド(Mud Jeansなど)が定着
- スウェーデン:衣料品修理への軽減税率を導入
▷ 日本の課題と可能性
- 古着寄付・リユース市場はあるが、再販ルートが限定的
- 国内メーカーの長寿命設計・再生ビジネスの強化が期待される
■ まとめ:ファッションは「ごみ」にならずに生き続けられるか?
ファッションが“着て、飽きて、捨てる”消費財である限り、 その大量供給の裏では、地球も人も、どこかで代償を払っている。
サーキュラーエコノミーの視点では、次の問いが不可欠です:
- 服は「製品」か?それとも「サービス」か?
- デザインの目的は「売ること」か?「循環させること」か?
- ファッションは「所有」か?それとも「共有・継承」か?