日本の循環経済は、リサイクルの先へ動き始めている
欧州から見える、2026年の日本の政策転換
欧州でサーキュラーエコノミーの議論に触れていると、製品を起点に考えることが多くあります。
どうサーキュラーデザインに設計するのか。
どれだけ耐久性を持って長く使うのか。
回収スキームはどうするのか。
再生材をどう市場に戻し、流通させるのか。
こうした視点は、もちろん重要です。
一方、欧州から最近の日本の政策を見ていると、少し違った動きも見えてきます。
日本では循環経済が、廃棄物やリサイクルだけではなく、資源安全保障、産業競争力、地域経済、そして金融と結びつき始めています。
ここには、欧州にとっても考える材料があるように感じます。
資源循環が、資源安全保障につながり始めた
日本は製造業の基盤を持つ一方、多くの資源を海外に依存しています。
そのため、世界で二次資源をめぐる競争が強まることの意味は小さくありません。
使用済み製品や部品、金属、プラスチックは、単なる「廃棄物」ではなく、もう一度生産へ戻すことのできる資源として捉え直されつつあります。
2026年の循環経済行動計画でも、再生資源の供給網、国内回収・再資源化能力、国際資源循環、リサイクル設備への投資などが強く打ち出されています。
欧州ではこれまで、環境規制や製品政策、市場ルールを通じて循環経済を前へ進めてきました。
日本ではそこに、経済安全保障や資源のレジリエンスという視点が加わりつつあります。
これは今後、欧州でもさらに重要になる論点ではないでしょうか。
技術だけでは循環しない
経済産業省の政策を見ると、対象はすでにリサイクル工程だけではありません。
製品設計、製造、販売、シェアリング、PaaS、メンテナンス、再販売、リユース、リファービッシュ、回収、リサイクルまで、バリューチェーン全体を見ています。さらに、ルール整備、投資支援、企業・自治体・大学などの連携も並行して進めようとしています。
ここは非常に重要だと思います。
優れたリサイクル技術があれば、循環経済が実現するわけではありません。
メーカーが再生材を使いたいと思っても、その前には回収する人、選別する人、品質を保証する人、運ぶ人、設備へ投資する人が必要です。
そして最後には、その製品を買う人が必要です。
実際の循環経済は、技術の問題以上に、バリューチェーン全体をどう成立させるかという問題なのだと思います。
金融が循環経済の中に入ってきた
今回、日本の政策を見ていて特に興味深いのが、金融の存在です。
日本政策投資銀行は、資金を提供するだけでなく、企業との対話、知見、ネットワーク、事業構造の検討を組み合わせながら、循環型ビジネスを支える考え方を示しています。
また、脱炭素化支援機構(JICN)では、「地域資源×循環経済×脱炭素」という視点から、地域の事業やインフラへのリスクマネー供給も進められています。
循環型ビジネスは、環境面で合理性があっても、必ずしも投資しやすいとは限りません。
原料が安定するのか。
品質は揃うのか。
需要はあるのか。
バージン材との価格差はどうなるのか。
こうした不確実性が積み重なると、事業としての予見可能性が低くなります。
欧州でも規制や制度はかなり整ってきましたが、その先にある「誰がリスクを取るのか」という問いは残っています。
日本で金融の議論が前に出てきたことには、欧州にとっても示唆があると思います。
地域という視点
もう一つ、日本らしいと感じるのが、循環経済と地方創生の接続です。
人口減少、高齢化、地域産業の縮小。
こうした課題を抱える中で、地域にすでにある資源をどう生かすのかという議論が進んでいます。
それは材料だけではありません。
森林やバイオマス、既存の建物、産業、技術、人材、地域のネットワークも含まれます。
内閣府では、地域資源循環の取り組みを地方創生の施策、人材支援、資金支援と結びつけています。
さらに、JICNの資料でも、地域内で循環の輪を回すことで地域資源の価値を高め、新しい付加価値や持続可能な事業につなげる考え方が示されています。
ここで問われているのは、単純な資源効率だけではありません。
地域に何を残し、どんな価値をもう一度地域へ戻していくのか。
欧州でも人口減少や産業転換に直面する地域は少なくありません。
この問いは、日本だけのものではないと思います。
日本は欧州を追いかけているのか
「日本もようやく欧州型のサーキュラーエコノミーへ向かっている」
そう説明することもできます。
ただ、私は少し違う見方をしています。
欧州には、エコデザイン、拡大生産者責任、修理、製品情報、再生材市場など、日本が学べる仕組みが多くあります。
一方、日本には製造業の集積、輸入資源への依存、複雑なサプライチェーン、地域人口の減少、そして地域に長く残ってきた産業や技術があります。
そうした条件の違いが、日本独自の循環経済の形をつくっていく可能性があります。
大切なのは、どちらが進んでいるかではありません。
互いの実践から、何を学び、何を自分たちの場所へ適応できるのか。
そこにこそ、日本と欧州をつなぐ意味があると考えています。
次は「実装」
政策の方向性は、かなり見えてきました。
ただ、本当に難しいのはこれからです。
循環経済は、政策文書の中や机上の論争では起こりません。
企業、自治体、回収・リサイクル事業者、金融、物流、市民、そして市場がつながったときに、初めて動き始めます。
誰が買うのか。
誰が投資するのか。
誰がリスクを取るのか。
そして、誰がそれぞれをつなぐのか。
これは欧州でも、何度も出てくる問いです。
これからの循環経済を決めるのは、さらに新しいビジョンをつくること以上に、循環が実際に成立する関係と経済合理性のある事業条件をつくれるかどうかなのかもしれません。
Circular Eでは、これからも日本と欧州の両側からこうした変化を見ていきます。
どちらのモデルが優れているかを論じるためではなく、
それぞれの経験から、何をつなぎ、何を学び、何を地域に合わせて変えていけるのか。
その対話や発信を続けていきたいと考えています。