数字で見る使い尽くす「地球資源」のリアル

Vol.7 ― 数字で見る資源搾取のリアル ―
私たちは日々、服を着て、飲み物を買い、スマホを使い、車に乗ります。それは、あまりにも自然な行為で、深く考えることは少ないかもしれません。
でも、その「ひとつ」がつくられる過程で、地球は何を失っているのか?その「便利さ」は、何を代償に成り立っているのか?Vol.7は、日常にあふれる製品と、それを支える“見えない資源搾取”の実態を、代表的な製品の生産時における資源の量を具体的な数字から読み解きます。
ジーンズ1本の生産時の水使用量:バスタブ50杯分
コットン栽培から縫製・染色まで、ジーンズ1本をつくるのに必要な水の量は約7,500〜10,000リットル。 これは、バスタブで約50杯分、あるいは1人の飲料水約13年分に相当します。
ある米国の大手ジーンズメーカー1社だけで年間1億本のジーンズを生産していますが、1年間で約1兆リットル以上(日本の年間家庭用水使用量の1/4に相当)おおよそ東京ドーム約6,000杯分以上の水が、“消費される前”にすでに使われているのです。
スマートフォンに使われる大手会社の年間使用
リチウム:トラック1,000台分の鉱石
スマートフォンや電気自動車に欠かせないリチウム。 このレアメタルは、実は南米の乾燥地帯──特にチリやボリビアの塩湖で大量に採掘されています。
業界最大手のスマートフォンメーカー1社だけでも、年間に約5,000〜7,000トンものリチウムを使用しており、 これは大型ダンプトラック1,000台分の鉱石に相当します。
問題は、その採掘に伴って、大量の地下水が汲み上げられていることです。 1トンのリチウムを得るのに、2万リットル以上の水、すなわち120,000,000リットルもの水が必要とされており、現地の農業や生態系に深刻な影響を及ぼしています。 つまり、私たちの手の中にある1台のスマホが、どこか遠い場所の水不足を加速させているかもしれないのです。
さらに、こうして作られたスマートフォンは、2〜3年ごとの買い替えを前提とした設計になっており、 世界中で年間62,000,000トン(約6,200万トン)の電子ごみ(E-Waste)が生まれています。 そのうち回収・再資源化されるのは、わずか17%。 残りの多くは埋め立てられたり、不適切に焼却されたりし、有害物質が大気や土壌に漏れ出しています。
ペットボトル1社の生産時に年間使われる化石燃料
石油:年間200万バレル以上
世界最大手の飲料メーカー(※業界トップクラスの企業)は、 年間約1,000億本のペットボトルを製造していると推計されています。 これは1秒あたりで約3万本が飲料メーカー1社で生産・消費されている計算です。
このボトル1本を作るのに必要な原料は石油。 原材料のPET(ポリエチレンテレフタレート)は、1本あたり約80mlの石油を必要とし、 年間に換算すると、約80億リットルもの化石燃料がペットボトルだけに使われているのです。
80億リットルとは、たとえば:
- ドラム缶(200L)で4000万本分
- 一般家庭の給湯器でお湯を沸かす場合、1億世帯が約5年分使えるエネルギー量にも相当します。
しかも問題は石油だけではありません。 ペットボトルはリサイクルされているとよく言われますが、 実際には「ボトルtoボトル」として同じ品質で循環するものは全体の10%未満。 多くはサーマルリサイクル(=燃やして熱回収)されるか、他製品に“ダウングレード”されて終わります。
そして、残ったものは野外に漏出するか、海に流れ込み、マイクロプラスチックとなって循環し続けます。 その一部は、私たちの体の中にも取り込まれているという研究結果も出ています。
ペットボトルの“便利さ”の裏には、
- 化石燃料の過剰依存
- ごみ処理の限界
- 環境中への不可逆な蓄積 という、三重の損失が隠れています。
つまり、私たちが手に取るたった1本のペットボトル飲料は、 「どこかの地下資源」「誰かの処理負担」「未来の海洋汚染」と引き換えに成り立っているかもしれないのです。
車1台あたりが“飲み込む”金属とプラスチック
― 静かに資源を喰らう、1トンの移動装置 ―
車1台をつくるのに使われる素材は、想像以上に重たくて、深い。 そのボディと骨格には、地中から掘り起こされた鉄鋼が約1,000kg。 大人15人分の体重に相当する鉄の塊が、まっすぐ走るために詰め込まれています。
軽量化の名の下に、アルミも200kgほど。 この銀色の素材、見た目は涼しげですが、製造には膨大な電力と環境負荷がかかるクセ者。 エレベーター1基分の外装が、タイヤの間に静かに乗っています。
そして見えない部分には銅が約25kg、つまり500円玉4,000枚分。 「ちりも積もれば鉱山ごと消える」レベルで、電子部品やモーター、配線にびっしり。
極めつけはプラスチックが約150kg。 見た目は軽くてカラフルですが、これは原油100リットル超を“素材化”した結果。 つまり車1台が生まれるたび、石油も一緒に燃えているということです。
電動化が進むと、資源の“食欲”はさらに加速する
ここに来て、電動化の波。 「EVにすれば環境にやさしい」と思われがちですが、それは走行中の話。
中身を見てみると、すでに車はスマホ数千台分の電子機器を抱えた、巨大デバイス。 あるEV車には、平均2,000〜3,000個の半導体チップが組み込まれており、 今や車1台でスマホ300〜500台分の電子部品が消費されています。
そして、それらを動かすバッテリーには:
- リチウム:20〜30kg(= スマホ数万台分)
- コバルト:10kg前後(= アフリカの鉱山労働とセット)
- ニッケル:最大40kg(= 原生林を切り崩して採掘)
この三点セット、1社で年間100万台のEVを生産すれば、数万トン規模の鉱物資源が地球から消えます。 それらの鉱物は、ラテンアメリカの塩湖を干上がらせ、アフリカの鉱山に煙を立たせ、アジアの精錬所でエネルギーを消費しながら、静かに“移動手段”に姿を変えていきます。
もはや“走る家電”ではない。“走る鉱山”だ
こうして誕生した現代のEVは、 もはや「環境にやさしい移動手段」にはなりえないかもしれません。
それは、“地球の地下資源を自動的に吸い上げ、都市に運ぶ巨大な装置”です。
一見、スマートでクリーンな車も、 分解して中身を見れば、埋蔵資源をぎっしり詰めた“走る鉱山”そのもの。 走っているのは未来じゃなくて、未来を削りながらの今かもしれません
1社だけで年間数百万台を生産すれば、それはもはや“移動手段”というより、 地球資源を自動で丸ごと消費する巨大なシステムとも言えるかもしれません。
経済を止めたいのではなく、「終わらせないために設計し直したい」のです
ここまでお読みいただいた方の中には、 「それでは、もう車もスマホも作らない方がよい?」 「経済を成長させない方がよい?」 そんなふうに感じられる方もいるかもしれません。
でも、私たちが本当に問いかけたいのは、そこではありません。
私たちは、“ものを作ること”や“便利さそのもの”を否定しているのではありません。
問題は、それが「使い捨て」や「大量廃棄」を前提とした設計になっていること。 さらに言えば、そうした設計思想が、私たちの暮らし・産業・政策すべてに染みついてしまっていることなのです。
どれだけリサイクルしても、 どれだけ燃やしてエネルギーに変えても、 最初から“捨てる前提”で作られた製品は、どこかで必ず行き止まりにぶつかります。
だからこそ今、私たちは問い直さなければならないのです。
人類が豊かな繁栄を次世代にも持続的に続くために、
- どうすれば「廃棄」せずに済む設計ができるか?
- どうすれば一度きりではなく、何度も価値を巡らせる社会にできるか?
これは経済成長を否定する話ではありません。 むしろ、経済を持続させるために“設計から見直す”ことこそが、今求められているのです。
資源が有限である以上、「循環させる知恵」がなければ、経済はいつか自らを崩壊させてしまう。 サーキュラーエコノミーとは、そうした未来を避けるための、“静かな革命”となりうるのです。