「透明なごみ」が世界を覆うとき
Vol.15| ― ペットボトルの静かな脅威 ―
はじめに:見えないから、問題にならない
海辺を歩いていると、目立つのは大きなプラスチックごみです。
発泡スチロール、漁網、ペットボトル。
けれど本当に厄介なのは、ほとんど目に見えないものかもしれません。
ペットボトルは、透明で、軽く、便利です。
そして、壊れやすく、砕けやすい。
この「透明さ」こそが、問題を静かに広げてきました。
1|ペットボトルは、どれくらい使われているのか?
世界では、毎分およそ100万本のペットボトルが販売されていると言われています。
年間にすると、約5,000億本。
そのうち、リサイクルされているのは約20〜30%程度にすぎません。
日本はどうでしょうか。
- ペットボトルの年間販売本数:約230億本
- 一人あたり使用本数:約180本/年
- 回収率:約85〜90%(※「回収」であり「再資源化」ではない)
数字だけを見ると、日本は「優等生」に見えます。
しかし、回収されたボトルのすべてが再びボトルに戻るわけではありません。
2|リサイクルの先で、何が起きているのか?
回収されたペットボトルは、次のような運命をたどります。
- 一部は国内で繊維やシートに加工
- 一部は海外へ輸出
- 品質が落ちたものは焼却・埋立へ
問題はここからです。
ペットボトルは、リサイクルを繰り返すたびに劣化します。
何度もボトルからボトルへ戻れる素材ではありません。
そして、劣化したプラスチックは、
やがて目に見えないサイズへと砕けていきます。
3|「透明なごみ」=マイクロプラスチック
5mm以下のプラスチック片は「マイクロプラスチック」と呼ばれます。
ペットボトル由来のものも少なくありません。
- 海水1立方メートルあたり、数万個が検出される海域もある
- ボトルのキャップやラベルよりも、本体の劣化が主因になる場合も多い
- 紫外線・波・摩耗によって、自然界で細分化される
WHO(世界保健機関)は、
飲料水・食塩・魚介類からマイクロプラスチックが検出されている
と報告しています。
健康影響は「まだ不明」とされていますが、
それは「安全」という意味ではありません。
4|なぜペットボトルは、ここまで広がったのか?
ペットボトルは「悪意の産物」ではありません。
- 軽い
- 割れない
- 衛生的
- 輸送しやすい
災害時や医療現場では、命を支える存在でもあります。
問題は、
短期間の利便性を、長期間の責任で支える設計になっていないことです。
使う時間は数分。
環境に残る時間は、数十年から数百年。
この時間差こそが、静かな脅威の正体です。
5|「見えない問題」をどう扱うのか?
透明なごみは、回収キャンペーンだけでは解決しません。
必要なのは、
- ボトルを「使い捨て前提」で設計しないこと
- リフィル、リユース、デポジット制度の拡張
- 「飲み物=ペットボトル」という前提の見直し
そして何より、
見えなくなった瞬間に、問題も消えたと思わないことです。
おわりに:静かな問題ほど、設計が問われる
ペットボトルは、便利で、清潔で、透明です。
だからこそ、その影響も見えにくい。
「透明なごみ」は、
私たちの生活のすぐそばで、静かに増え続けています。
サーキュラーエコノミーの視点とは、
派手な解決策を探すことではなく、
見えないものを、見ようとする姿勢なのかもしれません。